ワインと葡萄

ワイン用ブドウラボ、たまにピアノ

この程度なのか読売オンラインのワインコラム
読売新聞関連のサイト「Yomiuri Online」にドリンク&ワインというコーナーがあり最近は「目指せソムリエ」として過去に出された日本ソムリエ協会のソムリエ試験問題を取り上げています。新聞社なのだからそれなりに設問にも注意しているのかと思ったら、意外にも古いAOC教本そのまま例題に使っているみたいです。

こちらをご覧下さい。

南西地方の AOC に関する問題です。主たる葡萄品種とワインの色についての設問ですがコピーさせて頂くと

次の南西地方の A.O.C .に関する記述について正しい場合は1を、誤っている場合は2を選んでください。「Cahors は Cot 主体、Marcillac は Fer Servadou 主体で造られ、ともに赤のみの生産が認められている。」

設問のカギは「ともに赤のみの生産」にあります。AOC Cahors は黒ワインと云われるほどですから赤ワインに限ったアペラシヨンなのですが、知名度の低い AOC Marcillac マルシヤックが何色のワインか知らない人が多いところを突いた問題であります。

ここで私がこの設問自体に不備があることを指摘します。

ヨーロッパのワイン法に詳しいサイトから左のメニュー、フランスの「HAUTS PAYS」をクリックしてこちらを開き、右のメニューの AOC Cahors を開くと確かに

Seuls ont droit à l'appellation contrôlée « Cahors » les vins rouges qui

赤ワインだけの生産

Les vins ayant droit à l'appellation d'origine contrôlée « Cahors » doivent provenir des cépages suivants, à l'exclusion de tous autres :
Cot noir, Merlot noir, Tannat noir, Jurançon noir : - le Cot doit représenter au minimum 70 p.100 de l'encépagement ; - le Merlot et le Tannat doivent représenter ensemble au maximum 30 p.100 de l'encépagement.

そして葡萄品種はコット・ノワールが 70% 以上との規定があります。

次に AOC Marcillac を開くと

Seuls ont droit à l'appellation d'origine contrôlée « Marcillac » les vins rouges et rosés répondant aux conditions ci-après.

赤とロゼの生産となっています。従って「赤ワインのみ」との設問には不適な訳ですからこの時点で答えは×となる訳です。ですけどこれではマルシヤックの葡萄品種が何か問題にすることなく答えが出てしまうような幼稚な設問ではないでしょうか?

その下の葡萄品種に関する規定は

Les vins rouges et rosés ayant droit à l'appellation d'origine contrôlée « Marcillac » doivent provenir des cépages suivants, à l'exclusion de tous les autres : - cépage principal, dans la proportion minimale de 90 p. 100 de l'encépagement : Fer Servadou ; -
cépages complémentaires : cabernet franc, Cabernet Sauvignon, Merlot.

となっていて設問通り「Fer Servadou」が 90% 以上ということにはなっているのですが、これは1990年 4月 2日のかなり古い法令であります。

ですが最新の法令を見て下さい。

INAO のサイトからレジフランスのこちらを開いてかなり下の方138/150 を開いて下さい。重いので開くまで時間が掛かります。

現在の葡萄品種規定は次の通り語句も変わっています。コピーすると

V. - Encépagement
1°- Encépagement
Les vins sont issus des cépages suivants :
- cépage principal : fer N ;
- cépages accessoires : cabernet sauvignon N, merlot N, prunelard N.
2°- Règles de proportion à l’exploitation
La proportion du cépage fer N est supérieure ou égale à 90 % de l’encépagement.
La conformité de l’encépagement est appréciée, pour la couleur considérée, sur la totalité des parcelles de l’exploitation produisant le vin de l’appellation d’origine contrôlée.

現在の規定では主要品種名は「FER」(後に付くNは葡萄果皮の色を示す略号=黒の意)、次にセパージュ・アクセソワールと変わっているので混ぜなければならないという意味ではありません。1990年の規定では存在したカベルネ・フランが消滅して「Prunelard プリュヌラール」がお目見えしていますね。

このプリュヌラールは拙ブログで取り上げましたが葡萄品種「COT」の「父方」となる葡萄品種です。母方となるのは葡萄品種「MERLOT NOIR」と同じくMAGDELEINE NOIRE DES CHARENTES マグドレーヌ・ノワール・デ・シャラントであります。

設問として問題というのは設問者の認識としてアペラシヨン・マルシヤックの葡萄品種名を Fer Servadou としている点であります。常に新しい法令を知る必要があるはずの人達がこのような認識では質問される側の人間が迷惑します。

現在 INOA の認識としてアペラシヨン・マルシヤックの主要品種は Fer フェールであり VIVC のサイトでも同様、こちらに詳細があります。

補足ですが現在のところ FER と呼ばれる葡萄品種は3種あり、正式名称 FER は先程の 4085 ですが他に VERDOT GROS 12972 と BEQUIGNOL NOIR 1147 が存在します。いずれもフランス原産の黒品種でワイン用に使われる品種であります。また Fer Servadou と呼ばれる品種は2種、即ち正式名称 FER とVERDOT GROS 12972 であります。

私が何故問題にするのかというと Fer Servadou を正式名称に持つ葡萄品種は存在しないからであります。INAOもそれを認めたから法令を変更して葡萄品種名を変えた訳であり、葡萄品種名にシノニムを使うのは日本ソムリエ協会として重大な誤りと考えます。またその設問を何も検証しないでサイトに載せるとは大手の新聞社として恥ずかしくないのでしょうか? 設問そのものを鵜呑みにするようでは新聞記者として情けないはず。


葡萄品種 Fer フェールですが、最近その栽培が増えておりフランスのワイン関係者の間では注目を集めています。フランスの2つの葡萄品種に詳しいサイトではいずれもフェール・セルヴァドウとは呼ばずにフェールと呼んでいます。

まずはフランスの葡萄品種のサイトから左の品種名を見ていくと Fel のすぐ下に Fer がありますのでクリックして開いてみて下さい。 Fel は白葡萄でこれも南西地方の葡萄品種です。 Fer はこちらをご覧下さい。

また新しいフランスの葡萄品種に詳しいサイトではこちらです。1979 年では 319ha しかなかった栽培面積ですけど2008 年にはその5倍以上の 1,679ha まで増えています。どちらもそのシノニムとしてフェール・セルヴァドウを挙げてはいますが、今はそう呼ぶ人が少ないのは明らかであります。

ちなみにVIVCのサイトでは葡萄品種 FER のシノニムとして次の名称を挙げています。コピーさせて頂くと

ARECH
ARROUYA
BEQUIGNAOU
BEQUIGNOL
BOIS DROIT
BRAUCOL
BROCOL
CAILLABA
CAMAROUGE
CAMIROUCH
CHALAMONCET
CHALOSSE NOIRE
CHAUSSET
COUAHORT
CRUCHINET
ERE
ESTRONC
FER BEQUIGNAOU
FER NOIR
FER SERVADOU
FERRE
FOLLE ROUGE
HERE
HERRANT
HERRE
MANCES
MANSIN
MANSOIS
MAURON
MOURA
MOURAA
MOURACH
NOIR BRUN
PANEREUIL
PETIT BORDELAIS
PETIT FER
PETIT HERE
PETIT MOURASTEL
PETITE HERE
PIEC
PIEK
PIENC
PINENC
PLANT DE FER
QUEUFORT
SALEBOURG
SAOUBADE
SAUMANCES
SAUMANSOIS
SAUMENCES
SCARCIT
VERON
VERRON

報告されているだけで53例に上ります。葡萄栽培の現場ではシノニムは通じても、ワインの法律に関して、シノニムは御法度になっていくはずです。
| ワイン雑感 |
| 01:52 PM | comments (1) | trackback (x) |
コメント
新聞というのは、そんなもの。
取材しても、普通は取材先に記事が正しいかどうか
確認することもないようですし、間違っていても
後から小さく訂正するだけ。
新聞の科学記事もかなりいい加減ですよ。
自分の分野についていい加減な記事を一度見れば
後は他の分野も同じようなものと達観できます。
癌が治るって研究、毎日のように出てくるのに、
全然治らないじゃないですかw

それよりも、ワインスクールの先生って、どんな
レヴェルなんでしょうか?
 料理評論家のように趣味で食べ歩いているおぢさん、
おばさんって感じる人もいますが・・・

 あぶないので、このへんで。
ないでしょうね。
| La mer |2012/02/27 08:07 PM |

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